2011年4月号
連載 - 関西TLO の経営改革
第1回
環境変化に対応できず、業績悪化
顔写真

坂井 貴行 Profile
(さかい・たかゆき)

関西ティー・エル・オー株式会社
取締役


関西TLO は、1998 年にわが国で最初に承認TLO となった4 機関の1 つ。大学の知 財本部設置の環境変化に対応できず、業績が悪化。「解散か、新しいビジネスモデルに よる再生か」を迫られた。

「関西TLO なんて、百害あって一利なしやで」

2003 年度に始まった文部科学省の大学知的財産本部整備事業により、 各有力大学が知的財産本部(以下、知財本部)を学内に設置し、これまで関 西TLO が行っていた技術移転業務のほとんどを学内の知財本部が行うこと になった。これにより、各有力大学には関西TLO の必要性がなくなり、事 実上、われわれの仕事が消滅した。

冒頭の言葉は、当時、ある私立大学の産学連携担当理事の先生から言わ れた言葉である。

私が関西TLO の取締役として就任したのはこうした時だった。業績は著 しく低迷し、社員の士気も低下していた。

改革か、解散か――。関西TLO に残された道は、この二者択一だった。 私たちが出した答えは、抜本的な構造改革を断行し、「知的財産マーケティ ング(営業)をコアとした大学共同経営型TLO」として生き残る道だった。

われわれの生き残りを掛けた取り組み=関西TLO 再建の日々を5 回にわ たり紹介させていただく。

関西TLO 設立から赤字転落まで

関西TLO は、1998 年12 月に「大学 等における技術に関する研究成果の民 間事業者への移転の促進に関する法律 (TLO 法)」に基づき、文部科学省、経 済産業省の承認を受けた技術移転機関 である。東京大学TLO、東北テクノ アーチ、日本大学のTLO(同学産官学 連携知財センター=NUBIC)とともに、 日本で最初に承認TLO となった機関の 1 つだ。

10年の奇跡

京都大学や大阪大学などの国立大学、 同志社大学や立命館大学などの私立大学等、関西圏にある複数の大学の研 究成果を知的財産として特許化し、その実施権を企業などにライセンスす る技術移転事業を行う「広域型TLO」としてスタートした。設立から4 ~ 5 年は、文部科学省や経済産業省の支援を受け、順調にライセンス実績を上 げた。

2003 年の文部科学省大学知的財産本部整備事業によって、京都大学、 大阪大学、立命館大学などの有力大学が知財本部を設けたことにより、関 西TLO を取り巻く環境は激変。大学で生じた知的財産は大学に帰属される こととなり、大学内に設置された知財本部が発明評価からライセンス活動 までを一貫して行うこととなったため、関西TLO の存在意義はなくなって しまったのである。知財本部から関西TLO へマーケティング活動を委託さ れる案件は、知財本部でライセンス活動を試みて成功しなかったものや、 明らかにライセンスの見込みのないものがほとんどだった。

関西TLO は設立以来、文部科学省や経済産業省の補助金によって黒字を 計上していたが、設立7、8 年目の2004 年度、2005 年度には業績不振の ため、一挙に赤字に転落した。2 年連続で赤字を計上したため、当時の筆 頭株主の大阪ガスグループが2006 年10 月に事業を撤退し、第2 株主で あった学校法人立命館が中心となって、関西TLO の再建が行われることに なった。

業績不振の原因

新しい経営陣がまず取り組んだのは、業績不振の原因分析だった。分析 の結果、原因は大きく分けて次の3 つであることが分かった。

1 つ目は、不良在庫特許資産の存在である。各有力大学に知財本部が設 置される前は、関西TLO が出願人となって特許出願を行っていた。当時の 関西TLO 内の出願の基準は極めて甘く、出願可否の判断基準もなかった。 中にはライセンスの可能性がない発明でも、発明者の要望に応じて出願を 行っている案件もあった。その結果、売れない特許を数多く出願すること となり、設立7 年目となると、この不良在庫特許資産の維持管理費用が、 会社の経営を圧迫していた。

2 つ目は、各大学の知財本部との関係である。当時の関西TLO と各有力 大学の知財本部の関係は最悪だった。業務が重複し、お互いけん制してい たため、両者が協力して技術移転活動を行うという状況ではなかった。あ る大学の知財本部からは、研究者に直接コンタクトすることを禁止され、 またある大学では、関西TLO 社員は学内の出入りが禁止されていた。

3 つ目は、当時の営業スタイルである。TLO は本来技術移転機関なので、 企業に営業(ライセンス活動)を行うのが基本である。しかしながら、関西 TLO は自社では営業活動をほとんど行っておらず、営業活動のすべてを、 外部アソシエイトと呼ばれる企業OB の非常勤社員約20 名にアウトソー シングしていた。また、外部アソシエイトの個人の経験やノウハウに依存 しているため、組織としてノウハウは蓄積されなかった。この営業スタイ ルは企業には非常に不評であり、関西TLO の評判を落とす最大の原因だっ た。

大学共同経営型TLO 構想

これまでの業績不振の原因を突き止め、それを除いた上で、さらに関西 TLO を再建させるには、どうすれば良いのか。大学の知的財産本部が台頭 する中、関西TLO は本当に必要なのか。苦悩の日々が続いた。

TLO 業界で成功している東京大学TLO 社長の山本貴史さん、東北テクノ アーチ社長の井硲弘さん、農工大TLO 社長の伊藤伸さんを何度も訪問し、 関西TLO の再建方法について相談、TLO の在り方やビジネスモデルなど多 くのことを学んだ。これらの親身なアドバイスやご助言がなければ、今の 関西TLO はなかったと思う。特に山本貴史さんからは、関西TLO 改革の ポイントとなった「技術移転の成功のカギは、営業(マーケティング)であ る」ことを学んだ。

苦悩の末、私たちが導き出した新生関西TLO の目指 すべき姿は、「知的財産マーケティング(営業)をコア とした大学共同経営型TLO」である。

新生関西TLOの構想

これは、各大学の知的財産業務の営業部分を請け負 うという方法である。大学の知財本部は知的財産の管 理を担当し、関西TLO は発明の市場性調査、技術移転 先を探すマーケティング(営業)を担当する。大学共 同経営型とは、業務受託契約を結んだ大学に、関西 TLO への出資をお願いし、株主としてTLO 経営に関 与していただくスタイル、すなわち大学とTLO が一体 となって取り組むという考え方である。現在では、京 都大学、和歌山大学、京都府立医科大学、奈良県立医科大学、立命館大学 の5 大学との間で業務受託契約を締結し、各大学の知的財産について関西 TLO が独占的に市場性調査などの発明の評価、マーケティング(営業)を 行う体制を構築している。

関西TLO の生き残りを賭け、抜本的な構造改革を行い、「大学共同経営 型TLO 構想」を実現するためには、どうすればよいか。社内改革が始まっ た。

私たちが断行した抜本的な構造改革は、次号でご説明する。